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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
三
彼等は新しい大陸に足を立てゝ居る。彼等の過去は、彼船と共に夢と消ゆる共、彼等の現在は荒寥であるとも、彼等は洋々たる未来を代表して居る。彼等は新世界のアダム、イヴである。
此の画を見る毎に、彼はお馨さんと其恋人葛城勝郎を憶い出さぬことは無い。
三
葛城は九州の士の家の三男に生れた。海軍機関学校に居る頃から、彼は外川先生に私淑して基督を信じ、他の進級、出世、肉の快楽にあこがるゝ同窓青年の中にありて、彼は祈祷し、断食し、読書し、瞑想する青年であった。日露戦争に機関少尉として出陣した彼は、戦争が終ると共に海軍を見限って、哲学文学を以て身を立つる可く決心した。寡婦として彼を育て上げた彼の母、彼の姉、彼の二兄、家族の者は皆彼が海軍を見捨つることに反対した。唯一人満腔の同情を彼に寄せた人があった。其れは其頃彼の母の家に寄寓して居る女学生であった。女学生の名はお馨さんと云った。
お馨さんは、上総の九十九里の海の音が暴風の日には遠雷の様に聞ゆる或村の小山の懐にある家の娘であった。四人の兄、一人の姉、五人の妹を彼女は有って居た。郷里の小学を終えて、出京して三輪田女学校を卒え、更に英語を学ぶべく彼女はある縁によって葛城の母の家に寄寓して青山女学院に通って居た。