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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
四
而して彼女の家では、父死し、弟は年若ではあり、母が是非居てくれと引き止むるを聴かず、彼女は到頭家を脱け出して信州の彼が許に奔ったのである。
*
朝飯後、客の夫婦は川越の方へ行くと云うので、近所のおかみを頼み、荻窪まで路案内かた/″\柳行李を負わせてやることにした。
彼は尻をからげて、莫大小の股引白足袋に高足駄をはき、彼女は洋傘を杖について海松色の絹天の肩掛をかけ、主婦に向うて、
「何卒覚えて居て下さい、覚えて居て下さい」
と幾回も繰り返して出て往った。主人夫妻は門口に立って、影の消ゆるまで見送った。
四
一年程過ぎた。
此世から消え失せたかの様に、二人の消息ははたと絶えた。
「如何したろう。はがき位はよこしそうなものだな」
主人夫妻は憶い出す毎に斯く云い合った。
丁度満一年の新嘗祭も過ぎた十二月一日の午後、珍しく滝沢の名を帯びたはがきが主人の手に落ちた。其は彼の妻の死を報ずるはがきであった。消息こそせね、夫婦は一日も粕谷の一日一夜を忘れなかった、と書いてある。
吁彼女は死んだのか。友の妻になれと遺言して死んだ先夫の一言を言葉通り実行して恋に於ての勝利者たる彼等夫妻の前途は、決して百花園中のそゞろあるきではあるまい、とは期して居たが、彼女は早くも死んだの乎。