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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
四
笛吹川未曾有の出水で桃林橋が落ちた。防水護岸の為一村の男総出で堤防に群がって居ると、川向うの堤に白いものゝ影が見えた。其は隣郡に遊びに往って居た白であった。白だ、白だ、白も斯水では、と若者等は云い合わした様に如何するぞと見て居ると、白は向うの堤を川上へ凡二丁ばかり上ると、身を跳らしてざんぶとばかり濁流、箭の如き笛吹川に飛び込んだ。あれよ/\と罵り騒ぐ内に、愚なる白、弱い白は、斜に洪水の川を游ぎ越し、陸に飛び上って、ぶる/\ッと水ぶるいした。若者共は一斉に喝采の声をあげた。弱い彼にも猟犬即ち武士の血が流れて居たのである。
白に関する最近の消息は斯うであった。昨春当時の皇太子殿下今日の今上陛下が甲州御出の時、演習御覧の為赤沢君の村に御入の事があった。其時吠えたりして貴顕に失礼があってはならぬと云う其の筋の遠慮から、白は一日拘束された。主人が拘束されなかったのはまだしもであった。
四
白の旧主の隣家では、其家の猫の死の為に白が遠ざけられたことを気の毒に思い、其息子が甘藷売りに往った帰りに神田の青物問屋からテリアル種の鼠程な可愛い牝犬をもらって来てくれた。