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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
三
彼は色が大好きである。緋でも、紅でも、黄でも、紫でも、碧でも、凡そ色と云う色皆焔と燃え立つ夏の日の花園を、経木真田の帽一つ、真裸でぶらつく彼は、色の宴、光の浴に恍惚とした酔人である。彼は一滴の酒も飲まぬが、彼は色にはタワイもなく酔う。曾て戯れにある人のはがき帖に、
此身蝶にもあるまじけれど
わけもなくうれしかりけり日は午なる
真夏の園の花のいろ/\
三
変化の鮮やかは夏の特色である。彼の郷里熊本などは、昼間は百度近い暑さで、夜も油汗が流れてやまぬ程蒸暑い夜が少くない。蒲団なンか滅多に敷かず、蓙一枚で、真裸に寝たものだ。此様でも困る。朝顔の花一ぱいにたまる露の朝涼、岐阜提灯の火も消えがちの風の晩冷、涼しさを声にした様な蜩に朝涼夕涼を宣らして、日間は草木も人もぐったりと凋るゝ程の暑さ、昼夜の懸隔する程、夏は好いのである。
ヒマラヤを五も積み重ねた雲の峰が見る間に崩れ落ちたり、濃いインキの一点を天の一角にうった雲が十分間に全天空を鼠色に包んだり、電を閃かしたり、雹を撒いたり、雷を鳴らしたり、夕立になったり、虹を見せたり。而して急に青空になったり、分秒を以てする天空の変化は、眼にもとまらぬ早わざである。