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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
葬式
一
「あゝ好いおしめりだ」
斯く云った彼等は、更に
「まだ七時前だよ、まあ」
と婢の云う声に驚かされた。
夕立から本降りになって、雨は夜すがら降った。
(大正元年 八月十四日)
葬式
一
午前十時と云う触込みなので、十一時に寺本さんの家に往って見ると、納屋と上塗せぬ土蔵の間の大きな柿の木の蔭に村の衆がまだ五六人、紙旗を青竹に結いつけて居る。
「ドウも御苦労さま、此方様でも御愁傷な」
と云う慣例の挨拶を交わして、其の群に入る。一本の旗には「諸行無常」、一本には「是生滅法」、一本には「皆滅々己」、今一本には何とか書いてある。其上にはいずれも梵字で何か書いてある。
「お寺は東覚院ですか」
「否、上祖師ヶ谷の安穏寺です」
其安穏寺の坊さんであろう、紫紺の法衣で母屋の棺の前に座って居るのが、此方から見える。棺は緑色の簾をかけた立派な輿に納めて、母屋の座敷の正面に据えてある。洋服の若い男が坊さんと相対して座って居る。医者であろう。左の腕に黒布を巻いた白衣の看護婦の姿が見える。
「看護婦さんも、癒って帰るじゃ帰り力があるが」と誰やらが嘆息する。
時分だから上れと云わるゝので、諸君の後について母屋の表縁側から上って、棺の置いてある十畳の次ぎの十畳に入る。