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みみずのたわこと

みみずのたはこと

徳冨 健次郎

Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens

Aozora Bunko

八

空には白光りする岩雲が堆く湧いて居る。

七月中旬、梅雨があけると、真剣に暑くなる。明るい麦が取り去られて、田も畑も緑に返える。然し其は春暮の嫩らかな緑では無い、日中は緑の焔を吐く緑である。朝夕は蜩の声で涼しいが、昼間は油蝉の音の煎りつく様に暑い。涼しい草屋でも、九十度に上る日がある。家の内では大抵誰も裸体である。畑ではズボラの武太さんは褌一つで陸稲のサクを切って居る。十五六日は、東京のお盆で、此処其処に藪入姿の小さな白足袋があるく。甲州街道の馬車は、此等の小僧さんで満員である。

八

暴風にも静な中心がある。忙しい農家の夏の戦闘にも休戦の期がある。

七月末か、八月初か、麦も仕舞い、草も一先ず取りしもうた程よい頃を見はからって、月番から総郷上り正月のふれを出す。総郷業を休み足を洗うて上るの意である。其期は三日。中日は村総出の草苅り路普請の日とする。右左から恣に公道を侵した雑草や雑木の枝を、一同磨ぎ耗らした鎌で遠慮会釈もなく切払う。人よく道を弘むを、文義通りやるのである。慾張と名のある不人望な人の畑や林は、此時こそ思い切り切りまくる。昔は兎に角、此の頃では世の中せち辛くなって、物日にも稼ぐことが流行する。