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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
三
冴えかえる初春の空に白光りする羽たゝきして雲雀が鳴いて居る。春の驩喜は聞く人の心に涌いて来る。雲雀は麦の伶人である。雲雀の歌から武蔵野の春は立つのだ。
三
武蔵野に春は来た。暖い日は、甲州の山が雪ながらほのかに霞む。庭の梅の雪とこぼるゝ辺に耳珍しくも藪鶯の初音が響く。然しまだ冴え返える日が多い。三月もまだ中々寒い月である。初午には輪番に稲荷講の馳走。各自に米が五合に銭十五銭宛持寄って、飲んだり食ったり驩を尽すのだ。まだ/\と云うて居る内に、そろ/\畑の用が出て来る。落葉掻き寄せて、甘藷や南瓜胡瓜の温床の仕度もせねばならぬ。馬鈴薯も植えねばならぬ。
彼岸前の農家の一大事は、奉公男女の出代りである。田舎も年々人手が尠なく、良い奉公人は引張り合だ。近くに東京と云う大渦がある。何処へ往っても直ぐ銭になる種々の工場があるので、男も女も愚図云われると直ぐぷいと出て往って了う。寺本さんの作代は今年も勤続と云うが、盆暮の仕着せで九十円、彼様な好い作代なら廉いもンだ、と皆が羨む。亥太郎さんの末の子は今年十二で、下田さんの子守に月五十銭で雇われて行く。下唇の厚い久さんは、本家で仕事の暇を、大尽の伊三郎さん処で、月十日のきめで二十五円。