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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
与右衛門さん
月は次第に落ちて行く。
(明治四十二年 四月一日)
与右衛門さん
村の三月節句で、皆が遊んであるく。家は潰され、法律上の妻には出て往かれ、今は実家の厄介になって居る久さんが、何発心してか今日はまる/\の青坊主に剃って、手拭肩に独ぶら/\歩いて居る。
甲州街道の小間物屋のおかみが荷を背負って来た。「ドウもねえあなた、天道様に可愛がられまして、此通り真黒でございます」と頬を撫でる。気の利いた口のきゝぶり、前半生に面白い話を持て居そうな女だ。負ってあるく荷は十貫目からあると云う。細君が鬢櫛と鶴子の花簪を買うた。
小間物屋のおかみが帰ると、与右衛門さんが地所を買わぬかと云うて来た。少しばかりの地面を買って古い家を建てたりしたので、やれ地面を買わぬかの、古い天水桶用の釜を買わぬかの、植木の売物があるのと、蟻の砂糖につく如くたかってくる。金が無いと云っても、中々本当にしてくれぬ。与右衛門さんも其一人である。
与右衛門さんは、村内切っての吾儘者剛慾者としてのけものにさるゝ男である。村内でも工面のよい方で、齢もまだ五十左右、がっしりした岩畳の体格、濃い眉の下に開いた蛇の目の様な二つの眼は鋭く見つめて容易に動かず、頭の頂辺から足の爪先まで慾気満々として寸分のタルミも無い。