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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
朝日から露西亜へ派遣された時、余は其通信の一行も見落さなかった。通信の筆は数回ではたと絶えた。而して帰朝中途の死!
印度洋はよく人の死ぬ所である。昔から船艦の中で死んで印度洋の水底に葬られた人は数知れぬ。印度洋で死んだ日本人も一人や二人では無い。知人柳房生の親戚某神学士も、病を得て英国から帰途印度洋で死んで、新嘉坡に葬られた。二葉亭氏も印度洋で死んで新嘉坡で火葬され、骨になって日本に帰るのである。
高山の麓の谷は深い。世界第一の高峻雪山を有つ印度の洋は、幾干の人の死体を埋めても埋めても埋めきれぬ。其陸の菩提樹の蔭に「死の宗教」の花が咲いた印度の洋は、餌を求めてくことを知らぬ死の海である。烈しい暑さのせいもあろうが、印度洋は人の気を変にする。日本郵船のある水夫は、コロムボで気が変になり、春画など水夫部屋に飾って拝んだりして居たが、到頭印度洋の波を分けて水底深く沈んで了うた、と其船の人が余に語り聞かせた。印度洋の彼不可思議な色をして千劫万劫已む時もなくゆらめく謎の様な水面を熟々と見て居れば、引き入れられる様で、吾れ知らず飛び込みたくなる。
三年前余は印度洋を東から西へと渡った。