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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
駒が岳の噴火も其後の事である。然し汽車は釧路まで通うても、駒が岳は噴火しても、大沼其ものは旧に仍って晴々した而して寂かな眺である。時は九月の十四日、然し沼のあたりのイタヤ楓はそろ/\染めかけて居る。処々楢や白樺にからんだ山葡萄の葉が、火の様に燃えて居る。空気は澄み切って、水は鏡の様だ。夫婦島の方に帆舟が一つ駛って居る。櫓声静に我舟の行くまゝに、鴨が飛び、千鳥が飛ぶ。やがて舟は一の入江に入って、紅葉館の下に着いた。女中が出迎える。夥しくイタヤ楓の若木を植えた傾斜を上って、水に向う奥の一間に案内された。
都の紅葉館は知らぬが、此紅葉館は大沼に臨み、駒が岳に面し、名の如く無数の紅葉樹に囲まれて、瀟洒とした紅葉館である。殊に夏の季節も過ぎて、今は宿もひっそりして居る。薪を使った鉱泉に入って、古めかしいランプの下、物静かな女中の給仕で沼の鯉、鮒の料理を食べて、物音一つせぬ山の上、水の際の静かな夜の眠に入った。
真夜中にごろ/\と雷が鳴った。雨戸の隙から雷が光った。而して颯と雨の音がした。起きて雨戸を一枚繰って見たら、最早月が出て、沼の水に螢の様に星が浮いて居た。