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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
両三日来非常に蒸す。東の方に雲が立つ日もあった。二声三声雷鳴を聞くこともあった。
「いまに夕立が来る」
斯く云って幾日か過ぎた。
今日早夕飯を食って居ると、北から冷やりと風が来た。眼を上げると果然、北に一団紺色の雲が蹲踞んで居る。其紺※(「靜のへん+定」、第4水準2-91-94)の雲を背に、こんもりした隣家の杉樫の木立、孟宗竹の藪などが生々しい緑を浮かして居る。
「夕立が来るぞ」
主人は大声に呼んで、手早く庭の乾し物、履物などを片づける。裏庭では、婢が駈けて来て洗濯物を取り入れた。
やがて食卓から立って妻児が下りて来た頃は、北天の一隅に埋伏し居た彼濃い紺色の雲が、倏忽の中にむら/\と湧き起った。何の艶もない濁った煙色に化り、見る/\天穹を這い上り、大軍の散開する様に、東に、西に、天心に、ず、ずうと広がって来た。
三人は芝生に立って、驚嘆の眼をって斯夥しい雨雲の活動を見た。
あな夥しの雲の勢や。黙示録に「天は巻物を捲くが如く去り行く」と歌うたも無理はない。青空は今南の一軸に巻き蹙められ、煤煙の色をした雲の大軍は、其青空をすら余さじものをと南を指してヒタ押しに押寄せて居る。