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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
「呀、縁が」
と妻が叫んだ。南西からざァっと吹かけて来て、縁は忽川になった。妻と婢は遽てゝ書院の雨戸をくる。主人は障子、廊下の硝子窓をしめてまわる。一切の物音は絶えて、唯ざあと降る音、ざあっと吹く響ばかりである。忽珂と硝子戸が響いた。また一つ珂※(「王+黎」、第3水準1-88-35)と響いた。雹である。彼はまだ裸であった。飛び下りて、雨の中から七八つ白いのを拾った。あまり大きなのではない。小指の尖位なのである。透明、不透明、不透明の核をもった半透明のもある。主人は二つ食った。妻は五六個食った。歯が痛い程冷たい。
座敷の縁は川になった。母屋の畳は湿る程吹き込んだ。家内は奥の奥まで冷たい水気がほしいまゝにかけ廻わる。
「あゝ好い夕立だ。降れ、降れ、降れ」
斯う呼わって居る内、夜の明くる様に西の空が明るくなり出した。霽際の繊い雨が、白い絹糸を閃めかす。一足縁へ出て見ると、東南の空は今真闇である。最早夕立の先手が東京に攻め寄せた頃である。二百万の人の子の遽てふためく状が見える様だ。
何時の間にかばったり雨は止んで、金光厳しく日が現われた。見る/\地面を流るゝ水が止まった。