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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
読書、旅行と共に、若い者相手の他流試合は、爺さんの道楽である。旅行をするには、風呂敷包一つ。人を訪うには、初対面の者にも紹介状なぞ持っては往かぬ。先日の来訪も、型の如く突然たるものであった。
爺さんが北海道に帰ってからよこした第一の手紙は、十三行の罫紙に蠅頭の細字で認めた長文の手紙で、農とも読書子ともつかぬ中途半端な彼の生活を手強く攻撃したものであった。爺さんは年々雁の如く秋は東京に来て春は北に帰った。上京毎にわざ/\来訪して、追々懇意の間柄となった。手ずから採った干薇、萩のステッキ、鶉豆なぞ、来る毎に持て来てくれた。或時彼は湘南の老父に此爺さんの噂をしたら父は少し考えて、待てよ、其は昔関寛斎と云った男じゃないかしらん、長崎で脚疾の治療をしてもらったことがある、中々きかぬ気の男で、松本良順など手古摺って居た、と云った。爺さんに聞いたら、果して其は事実であった。其後爺さんは湘南漫遊の砌老父が許に立寄って、八十八の旧患者は八十一の旧医師と互に白鬚を撫して五十年前崎陽の昔を語ると云う一幕があった。所謂縁は異なものである。
北海道も直ぐ開けて了う、無人境が無くならぬ内遊びに来い遊びに来いと、爺さん頻りに促す。