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みみずのたわこと

みみずのたはこと

徳冨 健次郎

Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens

Aozora Bunko

最後の人家を過ぎてしばらく行く程に、イタヤの老樹が一株、大分紅葉した枝を、振面白くさし伸べて居る小高い丘に来た。少し早いが此処で昼食とする。人夫が蕗の葉や蓬、熊笹引かゞってイタヤの蔭に敷いてくれたので、関翁、余等夫妻、鶴子も新之助君の背から下りて、一同草の上に足投げ出し、梅干菜で握飯を食う。流れは見えぬが、斗満の川音は耳爽に、川向うに当る牧場内の雑木山は、午の日をうけて、黄に紅に緑に燃えて居る。やがてこゝを立って小さな渓流を渡る時、一同石に跪いて清水をむすぶ。

最早人気は全く絶えて、近くなる時斗満の川音を聞くばかり。鷹の羽なぞ落ちて居る。径は稀に渓流を横ぎり、多く雑木林を穿ち、時にじめ/\した湿地を渉る。先日来の雨で、処々に水溜が出来て居るが、天幕の人達が熊笹を敷き、丸木を渡しなぞして置いて呉れたので、大に助かる。関翁は始終一行の殿として、股引草鞋尻引からげて杖をお伴にてく/\やって来る。足場の悪い所なぞ、思わず見かえると、後見るな/\と手をふって、一本橋にも人手を仮らず、堅固に歩いて来る。斯くて四里を歩んで、午後の一時渓声響く処に鼠色の天幕が見えた。