Japanische Klassiker mit Furigana
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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
Lesen Sie 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 335.908 Zeichen · 669 Bildschirme
藤作は呟いたものである。
右衛門は一人で家を出て見張り所の方へ上って行った。朧ろ月夜の宵の事である。
道でパッタリ行き逢ったのは紋十郎の妹のお吉である。
「右衛門さん!」
と呼び止められたが彼は見返りもしなかった。
「右衛門さん!」
と、声高にお吉はまたも声を掛けたが右衛門はそのまま行き過ぎようとした。
「右衛門さん!」
と三度呼んでお吉は彼に追い縋った。お吉は右衛門の前へ廻わってキッとその顔を見詰めたのである。
「誰かと思ったらお吉さんか」右衛門の声は冷やかであった。紋十郎にこそ憎悪はあれ妹のお吉に対してはそういう冷やかな態度や言葉は彼として出せない筈でもありまた出しともない仲でもあったが、裏切りの事情を知ってからは彼はどうしてもお吉に対して以前通り優しい言葉や温かい態度を示すことが出来ず、久しぶりでこの地へ帰り着いてからも、成るたけ逢うまい逢うまいとして今日まで避けていたのであった。
冷やかな右衛門の様子を見ると、お吉はその眼を見張ったが、眦に溜まった一杯の涙が一度に頬に降りかかったので思わず両袖で眼を蔽うた。
響き渡る号笛
お吉のそういう様子を見ては、右衛門もいつまでも無情い素振りを続けていることは出来なかった。