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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
放歌浪遊
「…………」
だが、この沈黙の間に、忠平も、思いちがいしていた。――家司を通さずに、自分へ、直接申し出るからには、小次郎にも、肚があっての事にちがいない。……とすると、いやな奴だ、ヘタに、紫陽花の君のことを、いいふらされても、世間がうるさい。忠平は、内心の負け目に、そう疼かれて、
「……三日のあいだも、どこへ何しに、参るのかよ。日頃は、よう勤めておるし、暇をくれぬでもないが」
と、自分の方から、いい直した。
放歌浪遊
蕭々と、目のかぎりの水、目のかぎりの葦と空。
そのむかしの淀川は、後の世よりも、河幅もひろく、そして「大坂」などというものは、まだ、地上に存在もしていなかった。
けれど、都から、西国や紀州へ行くには、ぜひ、この舟航に依ったので、旅船や小舟は、水郷の漁村に、あちこち、苫や帆ばしらを、並べていた。
「――江口は、まだか、江口は」
「右手の岸に見えるのが、鳥飼の里だから、もう、いくらもない。――神崎川と、安治川の三ツ股に、分れる川の洲。そこが、江口の君たちのいます村だよ」
「思いのほか、迅かったな」
「遊び男の心を乗せるにふさわしい急流だ。――けれど、後朝を、また、都へもどる日は、舟あしも遅いし、懶いそうだぞ」