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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

むかしなじみ

悪いことつづきの古館に、じつに、将門帰郷以来の、ただ一つの吉事だった。それだけに、召使は、郷の住民にも、すぐ吹聴してあるき、全部落のよろこびとなって、門前は、賑わい立った。

だが、これを聞いて、ひとり嘲笑ったのは、奥にいる狼友だった。

「笑止だぞ、将門。畑や、沼の水鳥の番人を仰せ付かって、何がそんなに、めでたいのだ。もっとも、遠謀の計ならよいが、そう沸いては、おれまでが、世辞にも何か、一言ぐらい、祝いを述べなければならなくなる」

むかしなじみ

郷土は祭り好きである。猿島も葛飾も、筑波や結城も、この豊田郡も、何かといえば祭りだった。

館の御子が、太政官下文をいただき、御厨の職をうけられたと聞き、五風十雨の喜憂と共に、土着民はすぐ、産土神に集まった。原始的な楽器や仮面を持ちだし、二十五座の神楽を奏し、家々でも餅をつき、黒酒を酌んで歌った。夜は夜で、万燈を一時に消した境内で歌垣の集いをなし、乙女らも、人妻も、胸とどろく暗闇に、男の手を待ち合った。よその良人と、よその人妻と。知らぬ若人と、知らぬ娘と。どう睦み戯れても、祭の庭では、人もゆるし神もゆるし、罪とはしないその頃の習俗であった。