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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

流人秀郷

(――小次郎。庭さきへ来い)

とでも、家司を通じて、おことばが、かかるかと。

待てば、長い。なかなか、なんの吉事もない。

八月。――秋の初めである。

ある日、小一条のやかたに、一群の訪客があった。

訪客たちは、遠国からの人々らしく、同日、市坊の旅館に、旅装をといて、あらかじめ、使いをもって、右大臣家の内意をうかがい、衣装、髪かたち、供人などが担うて来た土産の品々まで、美しく飾りたてて、いとものものしく門へ佇み並んだものだった。

「これは、東国下野の掾、俵藤太秀郷にござりまする。越し方、かずかずの御鴻恩にも、たえて、親しゅうお礼も申しあげず、御不沙汰をかさねておりました故、いささか、国土産なと、おん目にかけばやと、まかり出てござる」

ひとり、秀郷だけ、内へはいって、ほかの郎党は、平門にのこし、こう、大臣家の上達部へ、申し入れた。

流人秀郷

秀郷も、小次郎の亡き父、平良持とひとしく、坂東地方の北辺に、幾代かをかさねている土豪の族長であった。

かれの居館が、下野の田沼に近い田原にあるところから田原ノ藤太ともいわれ、俵藤太とも書かれている。

かれは生え抜きの坂東土豪だが、母系が藤原氏の縁をひいているところから、藤原姓も名乗っていた。