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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

叡山の約

貴様はその総領息子じゃないか。――おいっ、しっかりしろよ」

「しているよ。しっかり、やっている」

「うそをいえ。――留守中、弟たちに聞けば、親の良持が遺した荘園や家産は、あらまし叔父共に分け奪りされてしまったというではないか。しかもまた、数日前、羽鳥の良兼の館で、貴様、袋叩きの目に遭ったとも聞いている」

「知っていたか。察してくれ。残念で残念で堪らない。この無念をどうしてはらそうか。そればかり考えて帰って来たのだ……いいところへ訪ねてくれた。おいっ、将頼、いちどここを片づけさせて、改めて、酒を運べ。おれも飲みたい」

弟たちには、兄と客が、どういう関係なのか、分らなかった。在京中の親友だろうくらいに想像した。家人は、燭を剪り、席を清めて、高坏や銚子を新たに、持ち出した。

その間も、不死人と将門は、ひッきりなしにしゃべっていた。話したい事、聞きたい事が、山ほどあって、何から、纏綿の旧情を解くべきか、どっちも、思いに急かれている姿だった。

叡山の約

まだ、将門が都の左大臣家にいた頃。――一年、藤原純友が、伊予ノ国へ帰るというので、友人ども大勢が、一舟を棹さし、江口の遊里で、盛大な壮行の宴をひらいて、夜もすがら大乱痴気をやって別れたことがある。