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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
名門息子
「それは、捨ておけん。一大事だ」
彼は、たちまち、馬を回して、野霜の方へ、駈けて行った。
この嵯峨源氏の嫡子も、年はもういい程である。正妻も側室も持っていた。だが、恋は、べつな道としているらしい。地方にめずらしい洒落者で、綺羅やかな太刀、狩衣の装いや、馬具の飾りの美々しさは、つねに草深い領下の土民の眼をそばだたせていた。そして、いつも七人や八人の供は連れている。
「はやく来い。ばかっ。おくれな、郎党共」
追いつき切れない家来たちを、時々、馬上から振り返って叱りながら、まるで、戦場へでも急ぐような語気である。
「隆の仕業かな? ……。そうだ。悪くすると、弟め、それくらいな事はやりかねん」
充分に、疑って、野霜の具足師、伏見掾の部落屋敷へ、駈けこんだ。
ところが、どこで聞いたか、弟の隆の方が、もう先にそこへ来ていた。翁も媼も、その夕から、床について、嘆き沈んでいるといって会わない。弟子たちや、部落の諸職の者を集めて、細々、訊きただしていたのだった。
「どうも、よくわからん。――桔梗がいなくなったのは、事実らしいが、前後のいきさつが、辻つま合わぬ」
「隆。何も、手がかりは、ないのか」