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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
白粉始事
てもろうたと……そこは、お聞えよく、話しておくりゃれ。……のう。頼むぞ。わしの名を、忘れずにな」
と、露骨な、自己宣伝の依頼を、平気な顔でいった。
白粉始事
放免は、気がるな男だった。
「東国ッていうと、ずいぶん、遠いだろうな。よく一人ぼッちで、来たもんだね。ゆうべみたいな目に、何度も、道中で遭やしなかったかい」
「ううん」と、小次郎は、かぶりを振り――「あんな目に遭ったのは、初めてだよ。鈴鹿山にも、海道にも、ずいぶん泥棒はたくさんいるそうだけれど、大人の後にばかりくッついて歩いて来たから」
「賢いな、おまえは。都へ出て、何になるつもりなんだい」
「学問したり、いろいろ、一人前の男の道を、勉強したりして、帰郷るんだ」
「とんでもない事だ。いい人間になろうというなら、都から田舎へ、見習いに行った方がほんとだ」
牛輦が、前から来た。悪路に揺れて、輦の簾が、音をたてている。泥濘をよけつつ、それと、すれちがう時、小次郎は、簾のすき間から、チラと見えた麗人の白い容貌と黒髪に、胸が、どきっとした。そして、薄紅梅に、青摺の打衣を襲ねた裳からこぼれた得ならぬ薫りが、いつまでも、自分のあとを追ってくるような気もちにとらわれた。