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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

貞盛の妻

どうも、気分が冴えぬ。岩井へ移ろう」

岩井の館は猿島郡だ。相馬から渡船で一水を越える地にある。船中で酒を酌みあい、寒いが、気は晴れてきた。昼も消えぬ霜の蘆荻の白々とした上に、筑波の山を――遠くをふり返れば、富士も見えた。

「兄者人。――常陸の蒜間辺に、敵方の残党が隠れて、何やら目企んでいるといいますぞ」

猿島へ上がると、将平、将文の兄弟が、彼を迎えるやいな、そう告げた。

「なに、残党が、うごいていると」

将門は、このところ、ひどく神経質になっていた。誰か、麾下の将をやっても足りそうな事なのに、

「すぐ、陣揃いを触れろ。おれも赴く」

と、いい出した。

豊田にいるより、岩井の館で、冬日を楽しむよりも、彼の心理は、今や、馬上の曠野の方が、かえって心が休まるもののようだった。――その日に、猿島へ立ち、南常陸方面の、那珂、久慈郡などを巡遊した。

事実、残党のうごきなどは、見られなかったので、庶民の眼からは、新皇の巡遊ぐらいに、見えたのであろう。そしてその行く先々では、将門が好むと好まないに関わらず、沿道の民が、道に平伏していた。郡司や府官は、堺まで出迎え、宿舎には、砂を撒き、白木の御所を調え、ここでも新皇あつかいである。