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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

千曲川

千曲川

高原の二月は、まだ残雪の国だった。

春は、足もとの若草にだけ見えるが、遠い視界の山々は、八ヶ岳でも、吾妻山脈でも、雪のない影はない。

「――なに、将門が追い慕って来たと?」

右馬允貞盛は、そう聞いても、初めはほんとにしなかった。

けれど、ゆうべ碓氷権現の境内に、その将門、将頼、将文などの手勢が、宿営したという噂は、途々、何度も耳にした事だし、また佐久ノ御牧でも今、

(およそ百数十騎の兵が、今日は、佐久高原から小県あたりを、何やら血眼になって、狩り捜している様子です)

と、そこの牧夫たちから聞かされたので、今は、疑う余地もなかった。

「――真樹。どうしたものだろう?」

貞盛は、馬上から振り向いた。長田真樹、牛浜忠太を始め、従者はおよそ四十騎しか連れていない。

「彼奴に、追いつかれては大変だ。――というて、この信濃路、山越えして諏訪へ抜けるか、千曲の川原を渡って、更級、水内から越後路へ奔るか、二つのうちだが……忠太はどう考えるぞ」

「さ。山に雪さえなければですが」

真樹も忠太も、暗澹と、行き暮れたような顔つきである。将門と聞いただけでも、彼等は、胆のすくむ思いがする。