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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
浦人の遺書
「奴婢、奴僕まで、連れ去ってしまった程ですから」
「いいさ、土さえあれば。――とにかく、行って来るからな」
と、小次郎は、柵を出た。
故郷へ帰ったら、少年の日の多くを過ごした、あの牧の丘へ坐って、もう一ぺん、行く雲を眺め、那須、浅間、富士の三煙を遠望してみたい――と、それは、都にいた頃からの願いであった。憶いであった。
浦人の遺書
いま、望郷の日の、憶いはとげた。
小次郎は、一つの丘の上に坐り、ぽつねんと、少年の日のとおりの恰好で、膝を抱えた。
――が。充たされてくるなにものもない。
空しい天地。馬のいない牧場。
どうして、幼い日、こんな寂寥の中に、終日、独りでいられたのだろう。また、都にいても、折にふれ、事にふれ、恋しく憶い出されて、いたのだろう。
長くいるにも耐えなかった。
しかし、肚をきめよう。この静かな天地の中で、――この丘に抱いていた夢とは、まったくべつな現実の中に、小次郎は、考え耽ってしまった。――何よりは、一人前の男として帰った以上、これから、いやでも、自分の双肩にかかってくる家長の責任だった。
「――都へ出たのは、ムダではなかった。何は学ばなくても、おれは人間を観てきた。