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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

野霜の宿

「そして、私も、ぜひ御一緒に、お供をしたいと思って来ました」

梨丸は、将門の眼を、じっと見て、哀願するように、そういった。何しに、常陸へ渡るかを、彼は知っているふうである。将門は、だまって、うなずいた。こんな無言のうちにも、情にはすぐ涙ッぽくなるのが、彼のくせであった。

野霜の宿

「渡舟口は、こんな所ではありませんよ」

梨丸は、主人をすぐ馬の背にのせて、そこから五、六町も下流へつれて行った。

馬を乗せ、自分たちも乗り、渡舟は、岸を離れて、河心へ漂い出した。河幅はおそろしく広いが、所々に、浅瀬があり、そのたびに、舟底が、ガリガリ鳴った。舟は、下流へ流され流され、斜めに、対岸を招きよせてゆく。

「将頼や、ほかの者は、あれから、館へ帰ったか」

「お帰りになりましたが、みな、お行先の事を心配して、つつがなく、帰って下さればよいがと、お身を気遣っておいでです」

「そうか。……おれを除くと、まだ、まるで世間見ずな弟たちばかりだからなあ」

舟の上から振向くと、豊田の館や、森や、また館のある辺りの小高い地形が、呼べば、答えて来そうな、彼方に見られる。

(――生きて、ふたたび、ここを渡るだろうか?)