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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

その将門が、たまたま、こんな奇禍のあとに、思いがけない曠野の家の人情にふれて、すっかり、幼児のような心理に返っていたのかもしれなかった。またそれ程に、日頃から、愛情に飢えていた彼でもあったにちがいない。

けれど彼は、三日目ごろから、意識的に、泣くのをやめた。と、いうのは、いつも彼の枕許に、看護しているこの家の小娘が、彼が泣くと、共々泣いて、果ては、しゅくしゅく、袂に、嗚咽をつつむからである。

娘の名は、桔梗といった。もちろんまだ二十歳をすぎていない。弟子たちは、桔梗さまと呼んでいる。

「桔梗どの。なぜ、お泣きになるんです」

将門は、ある折、彼女にそういった。病人と看護する者の間ほど、心と心との接近を、急速にするものはない。

「だって、将門様が、お泣きになるんですもの」と、桔梗は、はにかみながら答えた。

「ひとが泣くのに、何も、つきあって、一しょに泣かないでもいいんですよ」

「おつきあいではありませんよ。泣きたいから泣くのですもの」

「どうして、泣きたくなるのですか」

「でも……。あなたが、お泣きになるから」

「では、おれが泣かなかったら」

「私も、泣きますまい。