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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

梟のように、暗闇と、同化しきっている。むかし、祇園の森の暗がりに、いつも一つの焚火をたいて、怪しい同類をまわりにおいていた彼の存在が思い出された。また、忠平左大臣を裸にし、愛人の紫陽花の君を盗み出して、幾日も、どこかに隠しておき、色も褪せるほどにして、また、大臣の閨へ返してやったことなどもある。凄い男というほかはない。果たして、来年また来るかどうか。将門は、何しろ、その珍客を送り出して、ほっとしたような心地だった。

ところが、半月ほどたつと、いやな噂が、耳にはいった。

常陸の下妻まで用達に行った梨丸が、先頃の礼に、野霜の具足師、伏見掾の家へ寄ったところ、そこでも噂に出たし、ほかでも、聞いたというのである。

――というのは、良兼の寵愛しておかない局の玉虫が、忽然と、羽鳥の館から姿を消した。手分けをして探したが、皆目知れない。その結果、

(これはてっきり、将門の許へ、逃げて行ったにちがいない。怪しむに充分な理由はある)

と、羽鳥の人々が、いい触れたのが動機で、またその憶測に、尾ヒレがつき、

(事もあろうに、豊田の御子は、叔父御の愛妾を、横奪りなされた)

と、もっぱら、遠方此方で、取沙汰されているというのだった。