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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

野爪合戦

――さ、兄上」

将頼は、具足の着込みを手伝って、兄の体を、元の鞍の上へ、押し上げるように急きたてた。

矢は飛んで来なくなった。しかし、彼方では、将文たちに続いた豊田の郎党が、敵との間に白兵戦を起していた。

将門は、郎党の長柄を把って、

「もう、我慢しないぞ。おれは」

と、曠野へむかって、一声喚いた。

野爪合戦

ひとむらのけやき林がある。

整った林のある所には、かならず家があり、部落をなしていると見てまちがいはない。それは原野の住民が初めに防風林として植えた集団生活の墻であり、それ以外の雑木林とは、自ら姿がちがっているからである。

沼地の葦の間を縫い、また、広い野原を駈け、畑を駈け、一すじの土けむりを曳いた騎兵の群れが、今、吸いこまれるように、そこの欅林の蔭にかくれた。

「来るぞっ、来るぞ。将門が」

「やがて、野猪のように、襲って来ようぞ」

「かくれろ。――姿を伏せろ」

毛野川の東を、伏兵線の一陣とし、ここの欅林を二陣として、源扶、隆たち兄弟の兵は、二段がまえに、埋伏していた。

その第一線から戻って来た物見の騎馬たちは、あちこちの味方へこう呶鳴りながら、部落の中の一番大きな家の前へ来て、土塀の中へ、馬をかくし入れた。