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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
「では、来るな、こっちへ」
「必定、お味方の崩れ立って来る方へ、追い慕い、追い慕うて、襲ってくると思われますが」
扶は、こらえているふうだが、具足の下に、ふるえを見せ、顔も、硬直していた。
隆は、かえって、あざ笑った。
「いいじゃないか。こっちの作戦どおりだ。ここにも二陣の伏兵はひそめてある。わざと、勝ち誇らして、彼奴を、部落にさそい入れ、四方から火を放って、焼き殺してしまえばいい」
そこの屋根より高い空で呶鳴る者があった。三男の繁である。繁は、欅の大木から辷り降りながらいった。
「毛野べりの方から、真っ黒なほど、土ぼこりが、こっちへ向いて、駈けて来るぞ。将門と、豊田の奴らにちがいない」
土塀の中は、騒然と殺気だった。扶たちは、馬の背に跳びつくと、たちまちどこかへ、走り去った。郎党たちも、後につづき、残った者は、巧妙に、家々の蔭に、身をひそめた。
やがて土旋風の運んで来た人声やら馬蹄の音が、欅林の中にもけむり出した。将門とその家人に追われて来た扶方の伏兵共が、狩られる野兎のように、あっちこっちへ逃げまどうのであった。そしてついには、敵の一影も見えず、見るのは、将門につづいて来た将頼や将文、そのほか、豊田の郎党だけでしかなくなった。