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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

土と人

と、馬を飛ばして、豊田へ報らせに来た。

「なんだ、あわただしく」

その朝も、将門は、乳児のにおいのする妻の部屋にいた。外の小鳥の音と、桔梗の明るい声が、いつもの朝のように、良人の笑顔をつつみ、これから近くの領下へ検見に出かけようという供揃いを、門外に待たせたまま、時を忘れていたのである。

「ゆうべ晩く、筑波の者が、門を叩いて、告げに来てくれたのです。――羽鳥の良兼が、山に兵を集めて、水守の良正の方と、さかんに、早馬を交わして何か目企んでいる様子だと」

「また、叔父共のカラ騒ぎか。頼みもせぬのに、わざわざ、何だかだと、報らせて来るのもいるから困るな」

「困ることはありません。お館を大事に思い、兄者人に、好意を寄せていればこそ……」

「が、なあ四郎。おれはもう、いつまで、叔父甥同士で、浅ましい血みどろ喧嘩はしたくないんだ」

「それは、私たちでも、同様ですが、叔父たちは、今でも、豊田のわれら兄弟を、あくまで敵として、やじりを研いでいるのだから仕方がありません」

「相手にするな。どう悪声を放とうと、企もうと」

「充分、こっちは避けています。しかし、羽鳥や水守の衆は、この半年、いよいよ武器馬具を集めて、戦備に怠りなく、しかも、太政官の訴訟では、自分等の方が、正しく勝ったと、いい触れています」