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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

と、将武は、上の将頼や将平にささやいた。

弟たちには、思いやり深い長兄であったが、この頃は、どうかすると、その弟たちすら、頭ごなしに、どなりつける事がある。そして、ともすると、

「飲もう」と、いい出すのであった。酒量は、以前のようなものではない。大酔を欲しながら、いくら飲んでも、酔えないふうであった。

「怒っても、怒っても、おれはまだ、ほんとに、捨て身で怒ったことはない。それはおれに、生命を惜しませる愛しい者があったからだ。……が今は、何もない。堪忍ぶくろもズタズタだ。今日までは、受け身に廻って戦っていたが、これからは、おれから戦いを布告してやる。――歯を以て歯に酬う――」

彼は、それを、何度もいった。

気のせいか、将門の相貌までが、前とは、違って来たように、誰にも思えた。らんとした光をもち、しかも、あたたかさが、失われている。眸だけでなく、眉が、けわしく、唇は、何ものかを強く結び、桔梗に見せていたあの微笑や、わが子をあやしていたあの和やかな父の笑くぼは、もう永遠に、彼の面上に回って来ないものであった。

冬の初め。ああ、冬の初め。

彼は、初霜を見ると、思い出した。