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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
迷吏と病国
であった。
前の武蔵介藤原維茂が、常陸へ転任したので、その後へ――貞盛のあつかいで――任官して来た者である。
「お疲れでしょう。ともあれ、こよいは、私の渋谷の館へお泊りください」
「御好意に甘えよう。先に出しておいた書面は、もう、お手許へ届いていたかな」
「拝見しました。……出兵の儀も、権守殿と、寄り寄り、相談はしておるのですが」
と、経基は、口を濁して、
「仔細は、後でお耳に入れましょう。何せい地方事情というものは、地方へ居着いてみると、想像外なものですな。着任半年で、ほとほとその難しさが、やっと分って来たぐらいなところです」
と、駒をならべて、嘆息した。
郎従たちは、途中で松明を点した。そして、渋谷山の経基の邸へついたのは、もう夜更けであった。
貞盛は寝坊した。――翌る日、起き出てみると、もう館の母屋に、客が来ていた。
「お目ざめですか。権守殿が、早朝から来て、客殿でお待ちいたしております」
主の経基に、紹介されて、貞盛はやがて、その人と、客殿で対面した。
「――武蔵権守興世王です」
と、彼は、名乗った。貞盛も、都人らしい態度で、
「右馬允貞盛でおざる。お名まえは、疾くに、太政官の省内でも、よく伺っておりました」