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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

その月十五日には、もう彼の大兵は、上野へ侵攻していた。

ここでも、ほとんど、抵抗はなかった。

介ノ藤原尚範は、国庁の印を、使いを以て、将門の陣へ送り、自分は妻子をつれて、風のように都へ逃げのぼった。

行くところ、まるで草木もなびく勢いである。そして国司は国庁の印を捧げて、彼の軍馬を迎えるのだ。その領民はいうまでもない。

彼は、だんだん八州の大将軍のような気になった。これは悪い気もちではない。しかも彼は、乱暴を働かない。一時は、逃げ惑った領民も、彼を礼拝した。

将門は、また、国司たちの都へ帰りたいと乞う者には、兵を付けて、その家族を守らせ、信濃路の境まで、いちいちこれを送らせた程である。

武蔵、相模の国司などは、

“――コノ風聞ニ依ツテ、諸国ノ長官、魚ノ如ク飛ビ、鳥ノ如ク驚キ、将門ノ軍到ラザルニ、早クモ皆、上洛シ去ル”

と古記に見えるとおり、ほとんど、八州の官衙は、空き家になってしまったらしい。

まさに、無人の境を行くようなものだったろう。こうして、坂東八国の掌握は、難なく、その年のうちに成ってしまった。

将門の部下は、威風堂々と、豊田に帰った。

そして、その凱旋と、八国掌管の祝典を、大宝郷の大宝八幡の社前で開いたのは、明けて、天慶三年の一月、将門が三十八歳となった新年の事である。