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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

天慶二年十二月将門謹言

太政大殿少将閣賀 恩下

この上告文を持たせてやった使者は、暮のうちに立っているので、とうに都へ着いているはずである。しかし、使者もまだ帰って来ないし、摂関家の沙汰も、中央の反響も、皆目、まだ、分っていない。

将門が、怏々と、ひとり案じていたのは、その事だった。

衷情を訴えた血涙の文字だと思っているのは、彼自身の感傷が、彼自身を、悲壮にさせていたのだともいえる。

なぜならば、正直な彼にも、やはり文には、偽飾がある。すべてが、真実ではない。また、憐憫を仰ぎながら、その筆ですぐ強がりもいっている。

だが、中央の紊乱はもとよりのこと、地方の民治は、支離滅裂な時代ではあった。強い者があくまで勝ち、虚構が正直者を圧し、中央の公卿仲間に如才ない者が、ややもすると、官符を受けて、国庁の権や、土地の政情をも、私にうごかし得たのだ。そういう濁流の中の一文としては、まだまだ将門の文字の如きは、あわれむべき小心さと、正直者の光を、紙背にもっていたものといってよいかもしれない。

森の巫女

誰よりも、飲んでいるように見えて、じつは、誰よりも酔っていない男がいた。