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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

南面して、皇居を作り奉らん」

「やよ、左右の大臣。納言、参議を始め、文武百官、六弁八史の叙目は、到底、一日には任じきれぬ。したが、かんじんな内印外印の玉璽は、鋳てあるのか」

「たった今、八幡大菩薩の神告があったばかりだ。まだ、そこまでは手がとどかん。それに、玉璽には、古文を正し、鋳印には、寸法の故実も考えねば」

「わははは。もっともらしい事をいうわ。左大臣も、右大臣も、それらしい。したが、暦日博士には、誰がなるか」

「さあ、暦日博士は、ちょっと、見つかるまいぞ」

「何の、上総の浜から、漁夫の翁でも連れて参れば……」

将門はもう泥んこに酔いつぶれていた。乱舞の声も狂酔の歌も、遠いものにしか聞えていなかった。そこらにいる女と女たちの間に横たわって、眼じりから涙みたいなものを垂らしていた。

――ふと、醒めたのは、暁天の頃である。たれに、どこへ運ばれ、どう寝たのかも、まるで覚えはない。

「……水をくれい」

がばと、起き上がりざま、そういった。

ほの暗い燭と、帳の蔭に、黒髪を寝くたらして、幾人もの女が、木枕をならべていた。――何たる寒々しい光景だ。将門は、水を飲み終ると、ぶるっと、骨も鳴るばかりな胴ぶるいした。