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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

まずまず、童は、そこらに留めて、人目にふれぬようにしておいたがいい」

と、家司(老職)のさしずが下って、小次郎は、そこから更に、外庭を歩かせられ、

「ここで、待っていろ」

と、雑色の指さす所へ入れられた。

そこは、邸隅の輦宿とよぶ供待小屋であった。

たくさんな牛輦が、幾台も曳きこんであり、所々は、牛の糞が、山をなしている。

糞と涎と、牛の尻ッ尾のあいだでは、いろといわれても、いる所がない。晩春なのに、もう銀蠅が、慕って来ている。小次郎は立ちくたびれて、輦宿の横の棟をのぞいてみると、そこには、それぞれの主人に供して来た牛飼やら舎人たちが、十人以上も、屯していて、なにか、血眼をひとつ莚に寄せあっていた。

博奕だった。

“投銭”と俗にいう博奕で、その頃の庶民が熱中してやったものである。胴元の男が、幾枚かの穴あき銭を両の掌に入れ、振り音を聞かせて、ばっと、場に投げる。文字の銭面と、文様の銭面とが、どう出るかという点に賭け合うのであった。

小次郎も、覗きこんでいた。博奕は、坂東地方でも盛んである。けれど、もっと原始的な博技で、それに、こんなにもざらざらと銭を賭けることはない。