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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

といって、将門が、彼女をゆるして放した事までを、すべて、虚伝とするのはどうであろうか。貞盛や扶の妻が、身のおきどころもなく、蘆荻のあいだを、漂泊していたなどの事は、当時の実情として、甚だ、ありそうなことだし、将門がこれを殺さなかったという郷土の伝説には、多分に、それらしい事実もあったものと思われる。

とにかく、彼は、こんな事で、むなしく一月末頃までを、空虚に暮していたのである。その間に、偽宮の造営を計ったとか、貪欲に人民の財物を集めたとか、兵馬の拡充を急いだらしい痕跡もない。うかつといえば、じつにうかつな限りだが、周囲や世上の渦が、どう彼を大野望家に仕立てようとしても、彼自身が内面に、そんな大それた企画もなければ、欲もないのだから、何とも仕方がない。おそらく、彼はなお、都へやった長文の自己弁解の上申が、忠平父子にとりあげられて――やがて朝廷から慰撫の使いでも来るものと、ひそかにそんな期待でもしていたのではあるまいか。そのため、貞盛の妻や、扶の妻なども、助けてやったのではないかと思われるふしもある。

ところが、彼にむくわれて来たものは、

「貞盛に、呼応して、田沼の藤原秀郷が、下野の兵四千をひっさげて、山越えに進軍してくる」