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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

将門は、その手兵、全部をあげて、敵の大軍に近接し、射戦を仕懸けた。風向きは、彼に有利であった。いかに、十倍の兵力と、弓勢をつらねても、この烈風が味方しない以上、秀郷、貞盛の連合軍も、いたずらに矢を費い、手負いや死者を、積むだけであった。

乱れ立った敵陣のさまを見て、

「かかれっ。――貞盛の首、秀郷の首、二つを、余すな」

将門自身、馬を躍らせて、敵の怒濤のなかへ没して行った。あんな、涙もろい、鈍愚な、しかも事に当っては、うろたえたりする彼が、どうして、あんなに強いのか。強いという事と、日頃の侠気や魯鈍とは、べつなものであるのだろうか。将門の兄弟も、麾下も、驚いた。いや、励まされた。

貞盛は、馬をとばして逃げまどい、秀郷勢も、右往左往、荒野の雁の群れ、その物のような影を見せ、四散するのに、逸かった。

まさに、乱軍の状である。

いや、坂東の土が生んだ、将門という一個の人間の終末を、吹き荒ぶ砂塵と風との中に、葬り消すには、まことに、ふさわしい光景の天地でもあった。

将門はもう、将門という人間ではなくなっている。一個の阿修羅である。睫毛から髪の毛の先までの生命が、みな焔のごとく燃焼していた。