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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

出せば、一日も、この牧にとどまる事はできないので」

と、小次郎の耳へ、さも、深刻そうに、囁いたりしたこともある。だが、小次郎には、深刻でもなんでもなかった。牧の馬数が、目に見えて、減ってゆくのは、親しい友達が去ッてゆくに似た哀愁にはちがいなかったが、倉の中の物などは、あろうと、失くなろうと、彼にとっては、頭にもない問題だった。

ただ、子ども心にも、深く彫りこまれていたものは、父の死と同時に、常陸や下総や上総など、それぞれの居住地から、彼の家へ乗りこんできた叔父たちであった。

大叔父というのは、父の良持の兄にあたる人で、常陸の大掾、国香といい、これがいちばん威張っている。

そのほか、良持の弟、良兼、良正のふたりも、後見人として、のべつ来ていた。

小次郎の父良持が擁していた広大な土の支配は、この三叔父が、すべて指図し始めた。たくさんな家人も、奴婢も、みな、その三名を、新しい主人とも仰ぎ、陰口一ツさえ、怖れあった。

これを、不当なかたちと、見る者はなかった。なぜならば、小次郎の父良持が、息をひく寸前に、親類、家の子など、大勢を枕もとにおいて、親しく、国香、良兼、良正の三名へ、こう遺言して逝った事実があるからである。