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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

ふたりの従兄

――で、今も、轅と轅のあいだに、ひとり潜んで、近ごろの学者といわれる三善清行の家人から借りた何かの書物を、ふところから取出して、読み耽っていた。

すると、たれやらその側へ来て、だまって、小次郎の手の書物を、共に、見おろしている者があった。

直衣姿の、身分のひくい青侍で、年ばえも、小次郎にくらべて、幾つもちがわない――三ツ四ツ上か――ぐらいな青年である。

ふたりの従兄

「……? やあ」

ふと、気がついて、小次郎は、書物から眼をはなした。

そして、恥かしそうに、あわてて、書をふところにしまいこみ、

「――まだ、陽が高いようですね。諸卿のお退がりには、だいぶ、間がありましょうな」

と、てれかくしに、午後の陽を、ふり仰いだ。

供人宿の廂の蔭では、例によって、なにか、猥雑なこえが喧しい。外の、青桐の花の下で、居眠っているのもあるし、ものうい初蝉の声をよそに、ひそかに、投銭(博奕)をやっている物蔭の一群もある。

「よく勉学されるな。そこもとは」

さきも、初めて、にやりと笑った。小次郎は、顔をあからめた。事実、自分が読んでいたのは、中華の書物ではあるが、ごく初学者の読本にすぎない孔子の一著書であったからだ。