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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

飼いごろしに

――地方土豪とはいえ、こういう訪客をよろこばぬ大臣家ではない。忠平が、彼を迎うるにも、ほとんど、都の諸卿とかわらない程だった。

小一条のひろやかな庭園には、無数のささ流れを、自然の小川のようにひき、おちこちの泉石のほとりには、燈籠が置かれ、初夏の涼夜は、遠来の客のため、あらゆる風情と、美酒佳肴をつくしていた。そして、主の趣味とする管絃楽も興を添え、土豪秀郷の田舎奢りとは、雲泥の差があるところを見せもした。

飼いごろしに

「小舎人、小舎人。……おん内庭の御門をひらき、釣殿のおん前へ、遠国の客人が、お館へ献上の馬を、曳いて見せいとの仰せであるぞ。――その、用意な急ぎ候え」

右大臣家の老家司、巨賀は、よく忠平に叱られつけているので、下の者へ、命を通じること、いつも、このように、くどくどしい。

かれの語調をまねて、雑色部屋の者も、

「心得て候う」

と、笑いながら、腰をあげ、なお臣賀老人が、しつこくいうのに、再び答えて、

「御献上の下野鹿毛。ただいま、釣殿のおん前へ、曳いて参ろうずるにて候。しばらく、おん待ち候え」

と、どっと笑った。

臣賀は、さらに、他の小者に、松かがりを、庭に焚かせて、露芝の遠くに、ひざまずいていた。