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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

大正文化と女の力

その上、母は晩年には夜癪を起したりして、少しずつ弱っていった。東京に出てからも、昔私の腰巾着時代に、あれほど多くのいきり立っている女を、ほろりとさせる技術をもっていた人が、もうそれを使えなくなって、如何にも気の毒だと思うようになった。それが今でも私の母に対する同情になって残っている。

母は大学とか中庸とかいう四書でも、みなの読む三部経の類でも、眼では覚えずに何べんも聞いて耳から覚え、頭で覚えていた。そしてこちらの部屋で私が素読しているのを聞いて、間違いを直してくれるのが常であった。私としてはこんな機会にしか、母の長所を伝えることができないので、いろいろと話したわけである。

大正文化と女の力

あらわな形の夫婦喧嘩のなくなったこと、それは婚姻制度の変化から来ていると見ていいと思うが、それこそ明治の歴史に書かずにおれないような気がしている。

もとは相当な旧家で、由緒ある家ならば、親類までが寄り合って長い間かかって嫁を見つけた。また娘のたくさんある家では、そのうちで主婦になれる女を養成したものだ。尼将軍になった平政子なども、そんなにして育て上げられたのである。