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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

泉鏡花

彼らの文学を論ずる者が日光時代などとよくいうが、私からみればむしろ日光時代は空白の時代だったように思う。私が大学の一年の時だったかと思うから、この日光行は明治三十一年のことであろう。

泉鏡花

星野家の天知、夕影の両君と、妹のおゆうさんとの住居は日本橋にあった。中庭のある変った旧家で、すぐそばに平田禿木も住んでいた。おゆうさんはどちらかというと、兄の友人などからちやほやされることに、意識的な誇りを覚えるというような型の婦人だったように思う。後に吉田賢竜君の所へ嫁いだ。

吉田君は泉鏡花と同じ金沢の出身だったので、二人はずいぶんと懇意にしていた。よくねれた温厚な人物で、鏡花の小説の中に頻々と現われてくる人である。私が泉君と知り合いになるきっかけは、この吉田君の大学寄宿舎の部屋での出来事からであった。

大学の一番運動場に近い、日当りのいい小さな四人室で、いつの年でも卒業に近い上級生が入ることになっていた部屋があった。空地に近く、外からでも部屋に誰がいるかがよく判るような部屋である。その時分私は白い縞の袴をはいていたが、これは当時の学生の伊達であった。ある日こんな恰好で、この部屋の外を通りながら声をかけると、多分畔柳芥舟君だったと思うが、「おい上らないか」