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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
自然主義小説のころ
自然主義小説のころ
自然主義という言葉を言い出したのは、田山であったろう。しかも英語のナチュラリズムという言葉をそのまま直訳したのだが、はじめは深い意味はなかったと思う。田山は何か私らの分らない哲学的なことを言い出したりしたが、それはもう後になってからの話であった。それよりはもっと平たく言えば、やはり通例人の日常生活の中にもまだ文学の材料として採るべきものがあるということを認めて、それを扱ってみようとしたといえると思う。
別に私が田山に話したような奇抜なものだけを書かなければならないわけはない。たとえば二葉亭の『浮雲』や坪内さんの『書生気質』だって、別に変ったところもないだけに、かえって広い意味の自然主義の発端といえないこともなかろう。田山は私の犯罪調査の話ばかりでなく、私が旅行から帰って来ると、何か珍しい話はないかといって聞くことが多かった。私が客観的に見て話してやったのを彼が書いたものの中には、特赦の話以外にも多少注目に値するものもあった。不思議なことには、文学者というものは、われわれの話すことを大変珍しがるものである。想像もできないとかいって感心する。