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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

一高水泳部の起り

四つ五つの全部が雨にぬれて屋根の片端に引っかかっていたのには驚き呆れた。その話を松本氏は私たちにして、「旧い行き掛りというものは、きっぱり断ち切ったつもりでいても、実はまだ軒先に引っかかっている場合が、案外多いものだ」といったような話をきかされた。そんなことを今も憶い出すわけである。

赤穂出身の大鳥圭介は、大阪の緒方塾に学んだ医家の出だったが、徴用せられて幕臣になった人で、私がこの人に会ったのは日清戦争より以後のことである。それは五稜郭の勇士としてではなく、日清戦争で示された毅然たる氏の態度が非常に懐しくて会いに行ったのであった。この人に同郷学生の学友会の会長になってもらっていた。

高砂市出身の美濃部達吉にはじめて会ったのは、次兄通泰の下宿先であったと思う。「美濃部の弟が来ているよ」といわれ、私はそれをのぞきに行った。病気してしばらく帰郷していたが、帰京すると同時に、東大の本科の二年にいきなり受験して、入学したことも記憶に残っている。

一高水泳部の起り

私が毎週治療を受けている平方さんという鍼医のところで、思わぬ旧知に出会うことがたびたびある。この間も工学博士の井上匡四郎君に会った折、高等学校時代に三浦半島の大津に水泳場があったころの話が出た。