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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

「ええじゃないか」の話

現に五人の兄のうち一人が疱瘡で死に、一人はかからぬ前に亡くなって、他の三人はすべてやられている。その中でも井上の兄は殊に痕跡が著しく、気をつけていると一ぺんは人がその事を問題にする。それを自分では他に点の打ちどころがないからだなどといっていた。両親の中では父は軽かったということで、左右の眼のまわりに気をつけてみるといくつかある。疱瘡の見舞に貰ったという五色墨で自分で絵をかいたという唐詩選の画集が、私たちの頃までは残っていたので、改めて父の顔を見直したことがある。これと比べると母の方は少し気の毒なほど顕著であり、尾芝の叔母さんの方はそれがもう少しひどく、子供でも気の毒で口にしないほどだった。もう近頃の人は想像できまいが、この人のような心のやさしく遠慮がちな女性は、以前は殊に寂しい生活をしたかと思う。それを詳しく話そうかどうか、さすがの遠慮なしも今はまだ考え込んでいるところである。

「ええじゃないか」の話

この連載が始まってから五日目の夕刻のことである。一通の訃報が神戸から届いた。私にとって故郷に残っているたった一人の骨肉で、私の従妹にあたる藤原キク女の死亡通知であった。