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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

播州人のユーモア

私が通ったのは、たしか明治四十二年の六月末か七月のはじめであった。鶴はそろそろ田圃へ出て遊ぶころで、こんな歌を詠んだことを覚えている。

鶴山の鶴は巣立ちて遊ぶなり家なる稚児を思ひこそやれ

長女が、今年数え年五十歳になったが、その娘が生れたばかりの時であった。ずいぶん古い話である。

そのとき行ったきり私は行っていないが、きけば鶴山の鶴(じつはコウノトリだが)が出石郡から移動して、このころでは養父郡の方へ来たそうである。田畠に降りて作物を荒すという話だが、数少ない日本の名物だから、なんとか保護してやりたいものである。

播州人のユーモア

子供の時から「大屋の横行話」というユーモラスな話を何度となく聞いている。例えば村の剽軽な連中が都に上ったときの笑い話がある。鏡を売っている店に「かかみどころ」とあったので、嬶見所だと思って覗いてみたが細君は見られず、不思議に思って隣の店を見たら「ことしゃみせん(琴三味線)」とあったので、それを「今年ゃ見せん」と納得して帰ったという。日本中どこにもあるが、横行話として聞かされたもので、今でもそんな空気があの辺に残っているかと思われる。