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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

次弟松岡静雄

などと聞いて、すっかり本気にして楽しみにしてしまった。蛸は塩水にいることぐらい知っているはずと思って、からかったわけであったが、そうこうしているうちに、どうしたはずみか、それが嘘だと判った時の、静雄の不愉快な顔といったらなかった。彼が一生私のいうことをきかなかったのは、あのためだと思うくらい怒ってしまった。

その後、手賀沼の蛸釣りは有名な話になってしまった。「あなたはいたずらがすぎるからいけない」などと、家に来る者が子供の私をつかまえていったりしたこともあった。それ以来、何かというと、「また、手賀沼の蛸釣りだな」などと、みんなからからかわれたものである。

井上の兄が下谷に開業することになってから、母にしばらく来てほしいというので、下総から下谷に移ったが、その時、静雄、輝夫も母について御徒町にやって来た。静雄は間もなく兄の友人の京都の宮入家にあずけられて、ここで兵学校へ行く勉強をしていた。

次弟松岡静雄

静雄は、私がまだ大学にいる間に兵学校を出て士官となり、遠洋航海も済ませていた。そして日露戦争の時は、新参の大尉で千代田艦の航海長をしており、仁川沖の海戦に加わった。