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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

という発句をかけた。すると棕隠は即座に「斐たる君子と誰か見るべき」とつけたというのである。『大学』に「「斐たる君子あり」といって、立派な君子ありという意味の言葉があるのをもじって、「濡れた」に対し「乾たる」とかけて応答したというわけであった。その時分は『大学』を暗記している者が多かったから、子供でもこれを聞いて笑ったものである。

もう一つこんな話も伝わっている。加茂季鷹が棕隠と大変仲がよく往来していた。その時の話である。あの時分、浄瑠璃で「染分手綱」が流行り、その中に自然生の三吉が出て来る。それで「三吉乗ったか昔のくち合」という文句が行き渡っていた。子供も竹馬か何かに乗る時によく「三吉乗ったか」などといったものである。そこでこの「三吉乗ったか昔のくち合」に対し、棕隠らしいが、「文吉、すえたか(季鷹)今のつき合」と、文吉と季鷹とを読みこんで詠んだ。これにつづいて「染分手綱、詩歌の道」と詠み、つづいて「五十三次、道行長し」と出て、ますますおかしくなるのを、大人たちがよく話していた。

私は脇できいていて、大人と同じように笑うので、「この子は解ってる」といわれたことをいまだに覚えている。