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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

都を知らない弟たちとは少しちがうぞ。おれは、叔父共に、ごま化されはしない。また、怖れもしない」

しきりに、彼は、自分へむかって、呟き出した。郷土の大自然は、やはり、肉親の父に次いでの、無言の慈父であった。正しい勇気と、良心とが、さかんに、彼の若い体を励ますものとみえる。

「そうだ。人間を相手に思うまい。都にいても、人間仲間は、あの通りだ。腹ばかり立って、おれも、純友や不死人のような考えになってしまう。郷里もそうだ。叔父共の肚ぐろさには、業が煮えて、たまらないが、過ぎた事には、囚われまい。――ただ、土をあいてに、黙々と、出直そう。父の良持のした生涯を、この息子も、素直に倣って、行くとしよう。愚鈍というならいえ。お人よしと笑うなら笑え。おれには、総領の任がある。土さえあれば、おれだって、父の一代ぐらいな家門には、きっと、盛り返してみせる。いや、それ以上にもして、叔父共を、見返してやる」

帰り途に、彼は、父の代から牧の番をしていた御厨の浦人の住居をのぞいた。厩は朽ち、馬の影も見えない。ただ、破れ戸の内の土間に、白髪の媼が一人、糸車を廻して、独り、糸を紡いでいた。